第9回 介助のコツ

今回は介助についてお話させて頂きます。介助はしてあげるものではありません。介助が必要な方との信頼関係の上に成り立つ共同作業です。良好な信頼関係を築くには、上手な介助技術より、もっと初歩的なスキンシップと声掛けが非常に重要です。介助は対象者の身体に直接触れる重要なスキンシップの機会です。ことわざで「目は口ほどにモノを言う」とありますが、手も同じです。触れる事でこちらの心身の状態が怖いくらい相手に伝わるものです。

私が理学療法士で新人時代の話ですが、当時、勉強会や仕事の後などに先輩方とよくお酒を飲みに行っていました。ある時飲み過ぎて、次の日ひどい二日酔いになってしまいました。患者さんの前ではオモテに出してはいけないと思いつつも、結局見事に見抜かれ、本来逆の立場であるはずの患者さんに「今日体調悪いの?」と言われ、その後猛反省したという記憶があります。この患者さん曰く、私の手の力の入り方がいつもと微妙に違うとの事でした。医療人としては失格ですが、初めて手から伝わる事を認識した経験でした。

こちらの心や身体の状態を手を通して相手は敏感に感じます。介助の場面でもイライラして強く掴むように触ったり、忙しさから急いで動作をしたりすると相手は驚いたり、恐怖を感じるでしょう。しかし、その逆もあって、優しく包み込むようにゆっくり触れれば相手は安心してリラックスして動いてくれるかもしれません。誠心誠意、相手の事を大切にしようとする思いやりの心も手から相手へ伝わるはずです。
具体的には持ち方と触れ方を工夫することで、優しい印象を与え安心して頂くことが出来ます。

持ち方と触れ方

ひとつは指先に力を入れない事です。怖い印象を与えるだけでなく、皮膚に強い刺激を加える事でその深層にある筋肉は強張りうまく働かなくなります。(図1)ポイントとしては、対象者の身体の一部を持つ時は、(図2)のように構え、第二関節の部分で挟み込むようにして持ってあげます。これだけで持たれる側にはかなり優しい印象を与えることが出来ます。
また、上から掴むのではなく(図3)、下から支えるようにして持ち上げてあげるとより安心感が増します。(図4)

  • 持ち方と触れ方

    図1

  • 持ち方と触れ方

    図2

  • 持ち方と触れ方

    図3

  • 持ち方と触れ方

    図4

次に大切なことが声掛けです。冒頭でも述べましたが、介助は介助される方との共同作業です。いつ、どこに、どうやって、どんな体勢になるかの理解が得られなければ介助は非常に困難になります。必ず、介助の前にわかりやすい言葉でゆっくり、はっきりと声掛けを行うことが大切です。一見、反応が乏しい方でもなるべく多く声を掛けるようにします。言葉全てを理解することが出来なくても、言葉を掛ける事で脳は活性化します。

以上、述べたことは信頼関係を築く介助の入り口です。ここを疎かにしては、いくらテクニックがあっても安心してリラックスして動いてはくれないでしょう。まずは、丁寧に接する心を持って、持ち方からだけでも参考にして頂ければ、あなたの介助が相手に与える印象はずっと優しくなるでしょう。