介護施設の開業には何が必要?開業までのステップ・費用・資金調達方法

2023年03月21日

介護施設の開業を進める上では、「どのようなサービスを提供するのか」「どのようなコンセプトをもって行うか」を考えることが重要です。さらに介護事業は地域事情や諸法令について理解したうえで進めていく必要もあります。

この記事では、介護施設の開業を4つのステップに分けてご紹介するとともに、資金調達などについても説明します。

開業・開設のご相談

介護施設の開業に必要な4ステップ

介護保険が使えるサービスとしては、主に要支援状態の方を対象とする「予防給付」と要介護状態の方を対象とする「介護給付」の2つがあります。下の図のように介護サービスごとに指定・監督を行う自治体が決められており、地域密着型サービスなどは市町村が管轄しています。

引用:厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」

高齢者が増加し、比例して介護を必要とする方も増えており、「介護ビジネスは追い風」と言われます。需要に供給が追い付かない状況であり、追い風という表現はある意味正しいと言えます。 しかし、介護事業とは時流に乗ればうまくいくというほど簡単なものではないのが現実です。

ここでは、介護施設の開業に必要な4ステップについて解説します。

1.介護サービスの選定・コンセプトの決定
2.開設エリア・物件の選定(事前協議と指定申請)
3.什器・備品の準備
4.スタッフ採用

ステップ1.介護サービスの選定・コンセプトの決定

最初に行うことは、介護サービスの選定です。
上の図を見ていただくとわかるように、介護保険が使えるサービスは多岐にわたります。その中で自分たちが提供したいサービスは何なのかを考え、人員や資金面なども踏まえて決定します。

その上で、自社が介護事業を運営する上でのコンセプトを明確に定めます。コンセプトには、たとえば「利用者が楽しめるようなレクリエーションが豊富」「リハビリが充実している」「医療体制が整っている」など、さまざまなものが考えられます。 明確に打ち出したコンセプトは自社の「強み」となり得ますので、非常に重要です。 介護事業所は近年増加しており、それぞれの施設がさまざまな特色を打ち出しています。中途半端な取り組みでは他の施設に埋もれてしまいかねません。 「自分の施設は、〇〇についてはどこにも負けない自信がある」というほどのアピールポイントを考えてみましょう。

なお、介護事業を運営するには「法人格」を取得する必要があります。

近年では、別事業を営む法人が新規に介護事業を行うケースも増えています。法人であれば開設自体は可能ですが、サービスの性質上、介護の経験がまったくない法人が介護事業を行う場合には、慎重な判断が必要です。 とくに有料老人ホームなどの施設を開設する場合、設置主体となる行政が、事業未経験の法人に対して開設許可に難色を示すケースもあります。法人新設の場合も、行政との審議を要する場合があります。

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ステップ2.開業エリア・物件の選定(事前協議と指定申請)

エリアの選定にあたってポイントとなるのが「介護保険事業計画」です。
介護施設は、市区町村が策定する「介護保険事業計画」に基づいて整備されており、地域の現状を鑑みて不足しているサービスがあれば整備する、といった内容が含まれます。たとえば「高齢者の増加に対して受け入れ施設が不足しているので、特養を〇〇地域に50床、グループホームを××地域に18床整備する」といった計画です。 介護保険事業計画は、3年ごとに行われる介護保険法改正の都度見直されます。

上記を踏まえてエリアを定めたら、具体的な物件の選定に入ります。
介護施設に必要なものとして、厨房や食堂、機能訓練室、トイレ、浴室などがあります。物件が新築であればレイアウトや設計に比較的融通が利きやすいですが、テナントの場合はそうはいかない場合があります。たとえば、物件によっては厨房設備や浴室の設置が構造上不可能な場合も考えられます。 物件を選定する際は、提供するサービスに応じた設備やスペースを準備することが可能かを、しっかり確認しましょう。
次に、設置予定地にどのような法令の規制があるのかなど、市区町村・都道府県の担当部局に確認を取る必要があります。 その後、市区町村・都道府県などとの協議に進みます。これを「事前協議」と言います。事前協議の際には、指針に対する適合性を審査します。 事前協議が終了すると、ようやく介護事業所の「指定申請」ができるようになります。 指定申請とは、都道府県や市区町村から介護サービス事業所としての指定を受けるために行われるものです。介護サービスごとに示されている運営基準・人員基準・設備基準を満たしているかについて、細かくチェックされます。

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ステップ3.什器・備品の準備

介護施設のハード面が整ったら、次は「什器・備品」の準備に入ります。
介護事業の形態にもよりますが、リハビリ機器からダイニングテーブルや事務用品といったものまで、用意すべき什器備品は非常に多岐にわたります。あらかじめ綿密に準備をしておかないと、開設後に不足が生じて利用者に迷惑をかけることになるため、注意が必要です。

什器備品の準備にあたっては、メーカーへ直接アプローチする方法もありますが、コンサルタント、介護機器・福祉用具の商社などからの斡旋を受ける方法もあります。

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ステップ4.スタッフ採用

介護事業を運営するにあたっては、適正に人員が配置できなければ事業を行うことはできません。施設の種類によって人員基準が定められており、それに基づいて人員を揃える必要があります。職種によっては有資格者を配置することが義務になります。
たとえばデイサービスの場合、機能訓練指導員の配置が義務付けられておりますが、資格要件として「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」「看護師」「柔道整復師」などが設定されています。
出典:「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」

しかし、介護業界が深刻な人材不足と言われて久しいなか、人材を確保するのは容易ではありません。介護施設の開設を検討するには「人員の確保」という難関を乗り越えなくてはならないのです。 採用手段や時期、コストなど、あらかじめしっかり計画することが非常に重要です。

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介護施設の開業に必要な費用

フローセンサー

介護施設を開業するためには、ある程度まとまった資金が必要です。 ここでは「一般型デイサービス」と「リハビリ特化型デイサービス」を例に挙げて、開業費用の目安をご紹介します。
ただし近年では、建築資材の価格高騰、技術者不足による人件費の向上などの問題もあり、建築費全体が上昇傾向にあります。以下の価格は目安としてお考えください。

一般型デイサービスの開業費用

一般的な規模のデイサービスを提供する場合、物件の初期費用や家賃、内装費、人件費、運転資金などを含め、最低でも数百万円~1,000万円程度、規模や導入設備によっては数千万円が必要といわれています。
事業所の定員にもよりますが、小規模の事業所であれば比較的開業費用は抑えられるでしょう。 一方、食事を自社で調理して提供するような場合は、厨房機器の設置が必要になりますのでさらに高額になります。

リハビリ特化型デイサービスの開業費用

リハビリ特化型のデイサービスの場合、リハビリに必要な機器の導入が必要になります。セラピスト1名で多くの利用者に対して効果的なリハビリを行うためには、トレーニングマシンやリハビリ機器はある程度備わっていた方がよいと思われます。

介護施設の開業における資金調達方法

開業資金の基本は、自己資金です。施設の形態にもよりますが、介護施設の開設を検討するならば最低でも1,000万円前後の自己資金は確保することが必要でしょう。ある程度の自己資金を準備することは、後述する「金融機関などからの資金調達」にも影響します。
しかし、開業を検討している人が必ずしも潤沢な自己資金を持っているとは限りません。自己資金で不足する分は、資金調達をすることになります。

■資金調達には以下のような方法があります。
・メインバンクからの融資
・株式会社日本政策金融公庫からの融資
・信用保証協会からの融資
・WAM(独立行政法人福祉医療機構)などの団体からの融資
・助成金など等の活用
・リースの活用
メインバンクがある方は、まずは銀行に相談するとよいでしょう。

日本政策金融公庫からの融資は、国民の生活と国内の事業の発展・維持のために、起業や経営を助ける支援サービスをメインに掲げているため、「無担保、保証人なし」など、民間金融機関に比べると比較的融資が受けやすいメリットがあります。
信用保証協会からの融資は自治体を通した融資となります。自治体が融資の借り入れ条件を決定し、信用保証協会が保証を担ってくれ、金融機関によって融資が実行されます。 日本政策金融公庫や信用保証協会からの融資を受ける場合は、まず最寄りの商工会議所や商工会に相談するとよいでしょう。

WAM(独立行政法人福祉医療機構)では、福祉・医療を事業とする法人を支援することを目的とした融資制度もあります。こういった方法を利用するのもよいでしょう。

融資以外の資金調達法として、助成金の活用もあります。助成金は、一定の条件を満たす事業主が関係機関に申請をし、審査を経て、国や公共団体から支給を受けることができる給付金です。 介護事業に関連する主な助成金は以下の通りです。詳しくは都道府県労働局や公共職業安定所などにてご自身でご確認ください。

人材開発支援キャリア形成促進助成金
 事業主が、その雇用する労働者に対し、職業訓練等を実施した場合に訓練経費や訓練中の賃金を助成するものです。

人材確保支援助成金(介護福祉機器助成コース)
 労働者の身体的負担を軽減するため新たな介護福祉機器の導入等を通じて従業員の離職率の低下に取り組む介護事業主に対して助成します。離職率低下等、一定の目標を達成すると導入費用20%(生産性要件を満たした場合は35%)が助成されます(上限150万円)。

参考:
厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース)」
厚生労働省「人材確保等支援助成金(介護福祉機器助成コース)」

什器や備品、リハビリ機器の導入には、リースの活用も有用です。
リースは資金調達の一つといっても過言ではないでしょう。上手に活用することで、開設時にかかる費用を抑えることができます。

介護施設の開業で絶対に押さえておくべきポイント

実際に介護事業を運営して成功を収めるために、事業者はどのようなことに留意する必要があるのでしょうか。介護事業を運営する上で重要ポイントを3つ取り上げてご紹介します。

ポイント1.コンセプトに重きを置く

先にも触れましたが、自社が提供するサービスにはどのような強みがあるのかを考え、他社にはない差別化を図ることが、介護事業を継続的に運営する上では大切です。 「自分たちは何を重要視しているのか」「私たちが行うサービス理念とは何か」ということを意識することで、スタッフの意識も変わってくるでしょう。

ポイント2.営業・マーケティング活動にも力を入れる

近年では介護施設が増加しているため、開設した事業所の周辺に競合がいくつもあるという状況も珍しくありません。差別化とあわせ、それを発信するための努力や営業活動が必要不可欠です。待ちの姿勢では利用者獲得は困難であると心得るべきでしょう。
具体的には、病院やケアマネジャーへの営業を積極的に行いましょう。介護事業は医療機関やケアマネジャー、ほかのサービス事業所との連携が不可欠です。みんながチームになって利用者や地域を支えるという認識を持つことが大切です。
また、ホームページやブログ、SNSなどを活用した広報活動を積極的に行う事業所も増えています。事業所の理念や取り組みを広く発信するには有効なツールといえます。

ポイント3.スタッフの職場満足度も常に意識する

介護事業はスタッフの確保と定着が肝であるといっても過言ではありません。よいサービスを提供するためには、スタッフの職場満足度を高め続けることが大切です。
スタッフの定着率を高める方法としては、定期的な研修の実施、働きやすい環境の整備、給与など処遇向上などが考えられます。
簡単なことではありませんが、このような取り組みは大変重要です。

まとめ

介護施設を開業する手順や費用、必要な考え方などについて紹介しました。 介護事業は社会貢献性の高いサービスです。これから介護施設の開設を検討される方には、今回ご紹介したポイントをぜひ参考にしてください。

 

執筆者プロフィール

寺崎芳紀(株式会社アースソリューション 代表取締役)
東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、都内信用組合やスポーツ関連流通会社を経て、ベンチャー企業に参画し取締役営業部長に就任。その後大手介護事業会社にて数多くの介護事業所開発や運営に携わる。2007年より現職。経営コンサルタントとして医療機関・介護事業所運営のコンサルティングサービス等を行い、現在に至る。