医療法42条施設(疾病予防運動施設)とは?開業方法と注意点

2023年10月12日

地域のニーズをカバーするために、「医療法42条施設(疾病予防運動施設)」の立ち上げを検討されている方も多いのではないでしょうか。しかし医療法42条施設に関する詳しい情報は少ないのが実情です。

本記事では、医療法人の附帯業務、フィットネスとの違い、具体的な対象者、提供するメニュー、そして施設基準や開業に関する注意点について解説します。

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医療法42条施設(疾病予防運動施設)とは

医療法人の業務には、「本来業務」と「附帯業務」とがあります。 本来業務とは、開設している病院・診療所・介護老人保健施設または介護医療院の業務のことです。保険診療と言い換えても良いでしょう。 附帯業務とは、本来業務に付随する8つの業務で、医療法第42条に明記されています(詳しくは後述)。 この8つの業務のうちの1つ(第4号)に、「疾病予防のために有酸素運動(継続的に酸素を摂取して全身持久力に関する生理機能の維持又は回復のために行う身体の運動をいう。)を行わせる施設」があります。

引用:厚生労働省「医療法人の業務範囲」

これが、「疾病予防運動施設(通称:医療法42条施設)」です。 開設基準などについては後半で解説しますが、診療所が附置され、かつ、その職員、設備および運営方法が厚生労働大臣の定める基準に適合するものを設置する必要があります。 疾病予防運動施設はこの基準により、安全に有酸素運動を実施することができ、生活習慣病の予防や改善、健康の維持や増進ができるという特徴があります。

医療法42条施設(疾病予防運動施設)における医療法人の附帯業務について

前述した医療法人の附帯業務について、さらに詳しく説明します。 附帯業務とは、以下の8つです。

1. 医療関係者の養成又は再教育(養成と再教育で対象が異なるため、詳細は出典資料(厚生労働省「医療法人の業務範囲」)をご確認ください)
2. 医学又は歯学に関する研究所の設置
3. 巡回診療所や、医師または歯科医師が常時勤務していない診療所(へき地診療所など)等の診療所の開設
4. 疾病予防のために有酸素運動(継続的に酸素を摂取して全身持久力に関する生理機能の維持又は回復のために行う身体の運動をいう。)を行わせる施設であって、診療所が附置され、かつ、その職員、設備及び運営方法が厚生労働大臣の定める基準に適合するものの設置(疾病予防運動施設)
5. 疾病予防のために温泉を利用させる施設であって、有酸素運動を行う場所を有し、かつ、その職員、設備及び運営方法が厚生労働大臣の定める基準に適合するものの設置(疾病予防温泉利用施設)
6. 保健衛生に関する業務
7. 社会福祉法に掲げる事業のうち厚生労働大臣が定めるものの実施
8. 老人福祉法が規定する有料老人ホームの設置

出典:厚生労働省「医療法人の業務範囲」

以上の8つが医療法人の附帯業務であり、第4号が医療法42条施設(疾病予防運動施設)を指しています。

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の対象者

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の対象となる人は、主に以下のようなケースです。

一般の市民
健康維持や促進、ダイエットや疾病予防、日常生活の質を向上させたいという方。特に、生活習慣病の予備軍に対するニーズは昨今急激に高まっています。

高齢者
健康寿命の延伸を目指し、運動プログラムや栄養指導、認知機能維持に役立つプログラムを期待しています。また、高齢者が抱える疾患の予防や自己管理支援にもニーズがあります。

慢性疾患を持つ患者様
慢性疾患を抱える方には、症状の管理やセルフケアスキルの向上にニーズがあります。疾患教育や運動指導、リハビリテーションなどが求められています。

障害のある方
身体や精神的な障害を持つ方には、運動指導、生活支援、社会参加促進へのニーズがあります。

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の特徴

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の特徴ついて、以下の3つの観点から解説します。

適切な保健指導及び運動指導

疾病予防運動施設では利用者それぞれの健康状態やニーズに合わせ、医師による診察や健康運動指導士、保健師、管理栄養士などによる適切な保健指導や運動指導を提供できます。

病院・診療所併設のメリット

疾病予防運動施設は病院や診療所と連携しているため、必要に応じて迅速に医療機関を受診することができます。これにより、健康状態の変化や病気の早期発見が可能です。

理学療法士・健康運動指導士など医療スタッフのメリット

疾病予防運動施設には理学療法士や健康運動指導士など、リハビリテーションや運動指導の専門家が在籍しています。これにより、適切なリハビリテーションや運動プログラムが提供でき、利用者の状態に応じた効果的なケアが期待できます。

医療法42条施設(疾病予防運動施設)のメニュー

医療法42条施設で提供されるメニューの内容と提供方法について説明します。

まず内容ですが、身体機能の測定、運動(ストレッチ、有酸素運動、筋力トレーニング、バランス運動、スポーツトレーニングなど)、セルフトレーニングの指導など、多岐にわたります。 トレーニングは個別と集団があります。利用を始めたばかりの方や転倒の危険があるハイレベルなバランス練習は個別に実施する場合が多く、利用に慣れた方や安全性の高い有酸素運動などは集団で行うほうが多いです。 利用料金は、個別の方が集団より高く設定されている場合がほとんどです。

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の施設基準

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の施設基準は、厚生労働省が定める要件に基づいています。

以下に、疾病予防運動施設(附帯業務第4号)の主な施設基準を提示します。

●健康運動指導士その他これに準ずる能力を有する者を配置すること

●設備については、次に掲げるものを有すること
トレッドミル、自転車エルゴメーターその他の有酸素運動を行わせるための設備
筋力トレーニングその他の補強運動を行わせるための設備
背筋力計、肺活量測定用具その他の体力を測定するための機器
最大酸素摂取量を測定するための機器
応急の手当を行うための設備

●運営方法については、次に掲げる要件を満たすこと
成人病その他の疾病にかかっている者及び血圧の高い者、高齢者その他の疾病予防の必要性が高い者に対し、適切な保健指導及び運動指導を行う施設として運営されること
附置される診療所は、施設の利用者に対する医学的な管理を適切に行えるよう運営されること
会員等の施設の継続的な利用者に対して健康診断、保健指導及び運動指導を実施すること
会員等の施設の継続的な利用者に対して健康記録カードを作成し、これを適切に保存、管理すること

●附置される診療所について
診療所について、医療法第12条の規定による管理免除又は2か所管理の許可は原則として与えないこと(2つの診療所を同一者が管理できない)
診療所と疾病予防運動施設の名称は、紛らわしくないよう、別のものを用いること
既設の病院又は診療所と同一の敷地内又は隣接した敷地に疾病予防運動施設を設ける場合にあっては、当該病院又は診療所が疾病予防運動施設の利用者に対する適切な医学的管理を行うことにより、新たに診療所を設けなくともよい

その他、運営上の注意点については以下となります。

・施設内での情報共有や連携について、適切なプロセスを設けることで、患者のプライバシーを保護し、適切な運営が行われるようにする
・診療所や病院と疾病予防運動施設の間で、運営上の問題が発生しないように、事前に運営方針や役割分担を明確にしておく
・診療所や病院の医療スタッフが、疾病予防運動施設の運動指導員やスタッフと協力し、適切な運動プログラムを提供できるようにする

出典:厚生労働省「医療法第四十二条第一項第四号及び第五号に規定する施設の職員、設備及び運営方法に関する基準」

施設基準は更新される可能性が高いため、常に最新の情報をチェックされることをおすすめします。

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の開業に際しての注意点

医療法42条施設(疾病予防運動施設)の開業に際しては、いくつかの注意点があるので解説します。

申請書類

開業にあたっては以下のような書類が必要となります。

・定款変更認可申請書
・新定款(寄附行為)
・定款(寄附行為)の新旧対照表
・定款を変更することを決議した社員総会・理事会・評議会等の議事録
・業務に係る施設の職員の名簿
・敷地及び建物の構造設備の概要(図面等)
・附帯業務の運営方法を記載した書類
・定款(寄附行為)変更後2年間の事業計画及びこれに伴う予算書
・(社会医療法人の場合)収益業務の概要および運営方法を記載した書類

スケジュール

申請書類のうち、定款の変更にもっとも時間を要します。

一般的に定款変更には1~3ヶ月程度かかるため、予定した時期に開業するためにも、余裕をもって手続きを進める必要があります。

認可後

定款の変更認可が下りた時点で、医療法42条施設として開業が認められます。

開業後も適切な運営が求められるため、施設基準や人員配置に関する厚生労働省のガイドラインに従って運営し、患者様に適切なサービスを提供できるようにつとめましょう。

まとめ

生活習慣病の予防も含め、国民の健康意識は日に日に高まっています。それにともない、安全で効果的に運動できる施設が強く求められています。診療所や病院を併設し、専門の医療スタッフも揃えている疾病予防運動施設は、それらのニーズに応える絶好の場です。 地域にとってなくてはならない医療法人となることが、経営を安定させることに繋がります。医療法42条施設(疾病予防運動施設)は、地域のニーズに応える方法の一つです。

執筆者プロフィール

梅木駿太(うめきしゅんた)
合同会社Re-FREE 代表/経営コンサルタント/医療経営・管理学修士(MHA)
理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、介護事業所を有する医療法人の事務長として経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営コンサルティングを行っている。