デイサービス(通所介護)開業の必要条件とは?指定基準・資金調達方法も解説

2023年03月21日

デイサービスとは、介護保険法上は「通所介護」と呼ばれている通所系介護サービスです。サービスの品質を確保するため、介護保険法および開業地域の自治体によって、デイサービスの指定基準は厳しく定められています。

デイサービスを開業するにあたり、開業までの流れ、開業に必要な資格や条件、指定基準、開業資金、融資について解説します。

開業・開設のご相談

デイサービス(通所介護)開業までの流れ

デイサービスには、「デイサービス」「リハビリ特化型デイサービス」「総合事業(通所型サービス)」「地域密着型通所介護」「療養通所介護」「認知症対応型通所介護」「介護予防認知症対応型通所介護」などの種類があります。 開業申請や事前協議の窓口も、その種類によっては都道府県もしくは市町村と異なりますので注意が必要です。

下記に開業までの流れを簡単に示します。

(1)基本構想の決定
開業地域・物件を選定し、地域の情報に合わせて運営する上でのコンセプトを明確にさだめます。

(2)開設エリア、物件の選定
開設エリアを決め、開業条件に合わせて物件を選定します。

(3)法人設立
デイサービスの指定(許可)を得るためには、株式会社、NPO法人、社会福祉法人、医療法人などの法人格の取得が必要です。

(4)事業計画・資金調達
事業計画書を策定し、資金計画・売上計画・経費計画・収支計画などを策定し、必要な資金調達方法を検討します。

(5)事前協議
工事着工前に、指定機関と事前協議を行い、施設・設備の施設基準などを確認します。

(6)施設の設計・施工
事前協議の指摘事項に留意し、施設の設計・施工を行います。

(7)スタッフ採用
人員基準で定められたスタッフの募集を開始し、採用します。

(8)什器、備品、リハビリ機器の購入
施設に必要な什器・備品、リハビリ機器を購入します。

(9)指定申請
工事完了後に、書類を揃えて指定機関(都道府県または市町村)に申請します。

(10)広告・広報
利用者を集めるため、広告・広報で告知します。

(11)研修
スタッフの研修を始めます。研修期間では座学だけでなく動作のシミュレーションも行います。

(12)オープン
いよいよ開業です。

デイサービス(通所介護)の開業に必要な資格や条件

デイサービスの開業にあたっては、必要な資格や条件が法律によって細かく定められています。

ここでは介護保険法上の「通所介護」の開業として、デイサービス、リハビリ特化型デイサービス、地域密着型通所介護を開業する場合について、解説します。

開設エリア、物件の選定

デイサービスの開業では、「どこで開業するか」つまり開設エリアと物件の選定が非常に重要になります。

開業希望地域においてどのような介護サービスが提供されているのか、利用者は今後どう推移するのか、必要な雇用は確保できるのかを具体的に調べ、地域ニーズはあるのに満たされていないサービスは何かを検討する必要があります。 検討の結果によっては、デイサービスの形態を変えることも必要でしょう。

・商圏調査

地域の介護事業実態を調べるには、介護事業の開業支援を行うコンサルタント、リース会社、リハビリ機器メーカーなどが提供する無料もしくは有料の介護圏調査を利用する方法があります。


・不動産情報

不動産物件は、インターネットの物件情報サイトなどであらかじめ希望地域の物件や賃料などを確認した上で、地元の不動産業者などを通じて希望の立地や広さの物件が出る可能性があるのかを相談するのがおすすめです。 地元の優良物件はネットに出る前に信頼できるお客様に紹介されることも多いため、ネットだけで物件探しをするのは得策ではありません。また、デイサービスは地域に根ざしたサービスなので、地元のことをよく知る不動産業者や金融機関からの情報収集は欠かせません。
既存建物をデイサービスとして使う場合は、建築基準法の確認が取れているかを確認します。施設面積が200平方メートルを超える場合は建築基準法に基づく用途変更の手続きが必要です。さらに、東京都の場合はバリアフリー条例が適用されるのでバリアフリー関係法令に基づく整備基準に適合させなければなりません。

法人格の取得が必須

デイサービスは、介護保険法で定められている「介護保険事業所」に該当します。法人でなければ報酬請求ができません。 そのため開業するには、まず株式会社や合同会社もしくは社会福祉法人や医療法人などの法人格を得ることが必須です。
すでに法人格をもつ場合は、定款の事業目的を確認します。 介護保険事業所を開設するには、定款の事業目的に「介護保険法に基づく居宅サービス事業」と記載されている必要があります。記載がない場合は、定款の事業目的を追記します。
事業者の指定はデイサービスの種類ごとに受けることになるので、指定を受けるサービスに応じて定款の事業目的を記載する必要があります。 記載すべき文言は都道府県(市町村)によって異なる場合がありますので、事前に確認ください。

厚生労働省の調査によると、デイサービス(通所介護)の開設者は、51.8%が会社組織、36.3%が社会福祉法人、7.6%が医療法人です。

地域密着型通所介護の開設者は、75.8%が会社組織、11.9%が社会福祉法人、3.8%が医療法人です。

出典:厚生労働省「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概要 表5」より筆者作成

事前協議

デイサービスは、提供するサービスにより、設備に関する指定基準が決められています。開設エリアを決めたら、事前に都道府県(市町村)の窓口に相談し、基準を確認します。 地域や介護サービスによっては指定基準が細かく定められており、指定申請の前に「事前協議」が必要となります。

事業を行う建物の改修・新築の前に書類(以下で詳しく説明)を準備し、事前協議をおこないます。計画図面が基準に達していない場合は、再協議となることもあります。

事前協議から指定までは下記の手順となります。事前協議のあとでなければ、指定申請できません。
なお、東京都では事前協議は任意です。申請前に新規指定前研修の受講が必要です。

①事前協議予約
②事前協議
③施設建築・改修
④申請予約
⑤指定申請
⑥現地調査
⑦指定・研修
⑧事業開始

事前協議に必要な書類

事前協議に必要な書類は、都道府県(市町村)によって異なるので、窓口に事前に確認してください。

一般的には以下のような書類が必要となります。

・通所介護・通所型介護予防サービス・通所型短時間サービス事業計画・企画書
・通所介護施設整備チェックリスト
・市町村建築確認担当課および消防署との協議記録など
・土地・建物の図面(改修・新築の計画図面)
・予定周辺地図
・現況の写真(紙に貼って出す)
・事業所の平面図
・土地及び建物登記簿謄本
・建物の賃貸借契約書の写し

なお、事業所の図面を検討する場合は、各室で使用する設備機器や什器の配置もあらかじめ検討しておくことが大切です。効率よく業務を行うことができるように、リハビリ機器や運動スペース、机、椅子、ロッカー、テレビなどの配置スペースや動線を示しておきます。

指定基準 – 人員

デイサービスの人員の基準は、利用定員によって異なります。

通所介護(利用者定員が19人以上)

・管理者:専従常勤者1名
事業所の責任者としてサービス運用や業務全般を取りまとめます。

・生活相談員:専従常勤1名以上*1
施設の相談窓口の役割で、利用者のサービス利用の手続きや各種相談などの対応をします。 資格要件は、社会福祉士、精神保健福祉士、社会福祉主事任用資格および資格保有者と同等以上の能力を保持するものとされています。都道府県により介護福祉士や介護支援専門員を資格要件にしている場合もあり、開設する地域の都道府県に確認が必要です。

・看護職員:専従1名以上看護師または准看護師
利用者の健康チェックや機能訓練および必要に応じ看護業務をおこないます行います(病院、診療所、訪問看護ステーションとの連携でも可)。

・介護職員:専従1名以上*1
利用者15人まで1人以上。15人を超える場合は5人ごとに介護職員を一名ずつ増やします。資格要件はありません。

・機能訓練指導員:専従1名以上
利用者の身体機能回復のサポートを行います。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師*2のいずれかの資格保持が条件です。

*1 生活相談員または介護職員のうち1名以上は常勤であることが必要です。
*2 鍼灸師以外の機能訓練指導員が在籍する施設で半年以上の実務経験が求められます。

地域密着型通所介護(利用者定員が19人未満)

・管理者:専従常勤者1名
事業所の責任者としてサービス運用や業務全般を取りまとめます。

・生活相談員:専従1名以上*1

・看護職員:専従1名以上看護師または准看護師
利用定員10名以下の場合は、看護職員か介護職員どちらか1名の配置で可。

・介護職員:専従1名以上*1

利用者15人まで1人以上。16人以上の場合は2人。

・機能訓練指導員:専従1名以上
通所介護の場合と同じ要件。

*1 生活相談員または介護職員のうち1名以上は常勤であることが必要です。

指定基準 – 設備

人員基準にくわえて、施設・設備にも指定基準が定められています。地域密着型通所介護の場合も同じ基準となります。

・食堂・機能訓練室(1室)
食堂と機能訓練室の合計面積として利用者✕3平方メートルの面積を確保しなければなりません。

・トイレ

介助を要する者の使用に適した構造・設備とします。緊急時のブザーなど、通報装置の設置が義務付けられています。

・相談室
プライバシーを配慮した構造で音声が漏れないことと目隠しなどの対策を行います。

・静養室(専用室)
複数の利用者が同時に利用できる広さを確保します。気分が悪くなった利用者などのためにベッドを設置します。

・事務室
事務室は、広さや用途の条件はありません。事務作業を行う机・椅子、パソコン、プリンターなどの什器・事務機器を設置し、効率よく業務を行うことができるよう、作業動線に配慮して広さを検討します。

・浴室(入浴介助をおこなう場合)
安全に介助入浴ができるように、動線や広さ、手すり設置を考慮します。

・厨房(食事を提供する場合)
保健所の指導を受けます。食事や飲み物を準備する場所なので、環境衛生に配慮する必要があります。

食事・入浴を提供しない場合は、厨房、浴室は不要です。
なおリハビリ特化型デイサービスは「機能訓練型デイサービス」とも呼ばれ、サービス提供時間は3~4時間程度、午前と午後の1日2回サービスを提供しているところが多く、日常生活での身体機能の保持・改善を目的として機能訓練を行います。
専門スタッフによる機能訓練プログラムなどコンセプトを明確にし、通常のデイサービスとの違いを訴求することが大事です。

サービス提供時間

通所介護のサービス提供時間は、下記の6つの区分の中から施設ごとで決めることができます。一般的には、9時〜17時など朝食後から夕食までの時間(⑥8時間以上9時間未満)としている施設が多いようです。 介護報酬は、施設の規模、サービス提供時間区分、介護度によって異なります。

<サービス提供時間区分>
①3時間以上4時間未満
②4時間以上5時間未満
③5時間以上6時間未満
④6時間以上7時間未満
⑤7時間以上8時間未満
⑥8時間以上9時間未満

参考:ミナト医科学株式会社 お役立ち情報「■通所介護費・地域密着型通所介護費」

デイサービス(通所介護)の開業にかかる費用

デイサービス(通所介護)の開業にかかる主な費用は下記のとおりです。

法人設立費

介護保険事業所を開設するには法人格が必要なため、法人設立費用がかかります。 登録免許税にくわえて司法書士への費用を加えると、株式会社で30万円前後が費用の目安となります。社会福祉法人の場合は、設立費用以外に基本財産として1,000万円準備する必要があります。

内装・改修費用

内装・改修費用は、浴室の有無や内装仕様により変わります。 スケルトンから改修する場合で、内装工事は坪単価30~60万円程度が一般的です。しかし、物件の構造、設備・材料(壁紙・床材・照明・水回りなどの仕様)、デザインのこだわりなどによって大きく変動します。 内装・改修費を抑えるためには、施設のコンセプトや予算をあらかじめ設定しておくことが大事です。浴室なしの40坪で1,200〜2,000万円程度、浴室付きでプラス500万円程度が相場と考えてよいでしょう。 なお、内装・改修費以外に、テナントの場合は保証金や賃貸費用が必要になります。土地を購入する場合は、土地取得費用や施設の建築費用が必要となります。

備品・リハビリ機器費用

リハビリ機器、家具什器、電気用品、事務所備品などについては、施設のコンセプトに沿った物品を準備します。定員数、施設の広さ、選定する物品や数量によって費用がかかります。 目安として200~1,200万円程度とすると良いでしょう。

人件費

自治体から指定を受けるには、利用者を確保する前に必要な職員を確保する必要があります。開業当初は十分な利用者数を確保できないことが多いので、専従職員と業務を兼任できる職員を組み合わせて、必要最低限の人数でスタートする計画としましょう。その後、利用者の増加を見込して、サービスの品質が低下しないよう計画的に職員を確保します。 人件費は、職種と経験、年齢によって異なりますが、一人あたりの給与は20万円から40万円と見込みます。なお、給与の約16%の金額を社会保険料として予算に入れる必要があります。

車両費

送迎用の車両は、一台あたり福祉車両の軽自動車で120~200万円程度、7人乗りワゴンで200~500万円程度が目安となります(2023年1月現在)。別途税金・保険料がかかります。 リースの場合は契約期間にもよりますが、軽自動車は月額2.5万円程度から、ワゴン車は月額4万円程度からが目安です(2023年1月現在)。

運転資金

開業後数カ月は利用者が少ないことが予想されます。また利用者を予定どおり集めたとしても介護保険の入金は2カ月後となります。そのため、4〜6カ月の固定費+人件費を準備しておく必要があります。

デイサービス(通所介護)開業の資金調達方法

開業時には、開業費用にくわえて介護保険の入金までの運転資金も必要です。開業資金と運転資金の準備に利用できる、創業融資と金融機関の融資をご紹介します。

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、中小企業や小規模事業者をサポートする政府系金融機関です。創業時に設備資金と運転資金を有利な条件で融資を受けられる制度がいくつかあります。 無担保、無保証で3,000万円まで融資を受けられる新創業融資制度や、金利優遇のある女性・若者/シニア起業家向け新規開業資金などがあります。

参考サイト:日本政策金融公庫

地元金融機関

介護施設は地元密着型の経営なので、地元の地銀や信用金庫に融資について相談するのもおすすめです。地元の経営者やお客様を紹介してもらったり、開業後の経営相談をしたり、心強い味方になってもらえるでしょう。

リース契約

介護施設開業に必要な機材の準備については、設備資金を借りて購入する以外に、リース契約する方法もあります。 複合コピー機、電話、PC、ソフトなどの事務機器や車両、リハビリ機器、トレーニングマシンなどはリース契約することができます。リースの場合は、頭金が不要でリース料を毎月の経費として計上できます。車両の場合は、保険料や登録時およびリース期間中の諸税も含めてリース契約できるので導入時に多額の資金を準備する必要がありません。

まとめ

デイサービス(通所系介護施設)の開業では、地域の人口特性や介護ニーズにより、必要とされる介護サービスが異なります。デイサービスのなかでも、最近は地域の高齢者の介護予防や健康増進のニーズに応えて、リハビリ特化型のデイサービスが増加しています。通常のデイサービスと比べて設備も人材配置も異なります。 デイサービスの開業に関して、行政との手続きや施設基準、必要な人件費や改装費、車両費などについて、解説しました。どんな利用者をターゲットにどんなサービスを提供するのか、事業計画を作成する上で参考にしていただければ幸いです。

 

執筆者プロフィール

奥野美代子
中小企業診断士/医業経営コンサルタント
外資系ブランドPR27年の実績をもとに「魅力発信ブランディング」コーチングで院長のビジョン実現とスタッフ育成を行い、採用・集患に悩むことなく地域から選ばれる開業医の魅力発信・ブランディングを支援します。