クリニック開業に必要な資金は?診療科目ごとの費用目安
2023年03月21日
クリニックの開業には、高額な費用がかかるものです。開業に成功するためには、事前に綿密な計画を立てる必要があります。では、具体的にどのように考える必要があるのでしょうか。
この記事では、クリニックの開業に必要な開業資金の目安や内訳、具体的な金額などについて、診療科目ごとにご紹介いたします。
必要なクリニック開業資金の目安
クリニックの新規開業までにかかる主な費用としては、物件の取得費、施設の建築や内装工事費、医療機器や備品の購入費、運転資金、そのほかの準備費などが考えられます。
ただし、費用は一律というわけではありません。診療科によっても異なりますし、建物の形態を戸建てにするかテナントにするかなどによっても異なります。 また近年では、建築資材の値上がり、技術者不足に伴う人件費の向上といった背景により、建築費は上昇する傾向が見られます。以下の価格は目安としてお考えください。
では、それぞれ具体的にご紹介いたします。
診療科目ごとのクリニック開業資金の内訳
クリニックの開業資金の内訳について詳しくみていきましょう。
診療科目ごとの違いについても説明します。
物件取得費
新たにクリニックを開業するケースとしては、いわゆる【戸建てクリニック】のケースと【テナント】のケースが考えられます。
【戸建て】のメリットは、レイアウトの自由度が高いことがあげられます。自由度が高いと、導線の確保や医療機器の配置のしやすさにつながります。 【テナント】のメリットとしては、候補立地やエリア、物件の選択肢が増えることがあげられます。診療圏人口の多いエリアや駅近などの好立地物件を確保しやすいのも魅力です。
【戸建て】の場合、立地によって土地の価格は異なります。購入するのであれば数千万円から億単位の金額かかってくることも想定されます。
【テナント】の場合は土地の購入費はかかりませんが、「保証金」「仲介手数料」「初月の賃料」などの初期費用が必要となります。 保証金は賃料の6~12ヶ月分程度、仲介手数料は家賃の1ヶ月分程度が目安です。また賃料は、基本的に契約直後から支払いが発生します。たとえ内装工事期間中であっても賃料が発生しますので、考慮しておく必要があるでしょう。
なお戸建て、テナント以外の方法として、土地のオーナーに建物を建ててもらいそれを賃借する【建て貸し戸建て】という方法もあります。戸建てのような土地の購入費はかかりませんが、テナントと同様に「保証金」「仲介手数料」「初月の賃料」などの初期費用はかかります。
建築費や内装工事費
まずは、戸建て型とテナント型での費用の違いについて説明します。
戸建て型は設計の自由度が高いのが利点ですが、建築費用が上乗せされるために、初期費用はテナント型よりも一般的に高くなります。面積や階数などにもよりますが、建築費と内装費で数千万円は見込んでおく必要があります。
一方、テナント型の場合、建築費はかかりません。その半面、物件によっては理想の間取りにすることが難しく、また各部屋に十分な広さが確保できない可能性もあります。
内装工事にかかる費用は、クリニックの規模や設備などによって異なりますし、使用する材料のグレードによっても変わってきます。 またX線室、手術室など特殊な工事が必要な場合は、 その分の坪当たり内装費が上乗せされます。 一般的な内科や外科の場合、坪あたり50~60万円程度が見込まれます。 X線室を要しないなど、特殊な工事が必要なければ、内装工事費は多少抑えることができるかもしれません。それでも坪あたり30~50万円程度は見込む必要があります。
なお美容外科や健診クリニックなどでは、よりハイグレードな内装が求められる傾向があります。その場合、さらに費用は増額されます。
医療機器・備品の購入費用
必要な医療機器は診療科目によって異なりますが、たとえ同じ科目であっても、どの程度の設備を整えるのかによってもかかる費用は変動します。 医療機器は基本的に高額のものが多いため、物件取得費や建築・内装費とともにしっかり検討しなければならない費用です。 クリニックの新規開業にあたって一般的に必要とされる医療機器費用の目安について、診療科目ごとにみてまいりましょう。
診療科目 | 内科 | 整形外科 | 眼科 |
必要機器例 | ・電子カルテ ・X線装置 ・超音波診断装置 ・心電計 など | ・電子カルテ ・X線装置 ・CR ・骨密度測定検査 ・物理療法機器 ・運動療法機器 など | ・電子カルテ ・眼底カメラ ・眼圧計 ・顕微鏡 など |
医療機器費用の目安 | 1,800~3,500万円程度 | 約2,500万円~ | 2,000~4,500万円程度 |
診療科目 | 精神科・心療内科 | 産科・婦人科 | 小児科 |
必要機器例 | ・電子カルテ ・脳波計 ・心電図 など | ・電子カルテ ・超音波診断装置 ・分娩台 ・保育器 など | ・電子カルテ ・吸引器 ・デジタルスケール ・X線機器 など |
医療機器費用の目安 | 約400万円~ | 約2,000万円~ | 約1,000万円~ |
上記はあくまで目安です。診療方針や専門分野、開業エリアにおける診療ニーズ、他院との差別化要素などによって、必要な医療機器は変わります。高額な医療機器を備える場合は、さらに費用がプラスされるでしょう。 医療機器の金銭的負担を抑えるためには、診療圏の調査結果や診療コンセプトとの兼ね合いなどを考えて、医療機器を選別する必要があります。
医療機器の費用は自己資金や銀行融資などで賄うのが一般的ですが、リースを上手に活用することで、初期にかかる費用を抑える効果が期待できます。
運転資金
開業までにも少なくない費用がかかりますが、それ以上に重要なのが「運転資金」です。
クリニックを開業しても、すぐに患者様が集まるとは限りません。また、患者様の診療がスタートしても、実際にクリニックに診療報酬が入るのは請求の約2ヶ月後となります。 開業初期はどうしても収益が安定しないものですが、賃料や人件費、リース代は、患者様のいかんにかかわらず発生します。加えて開業資金を金融機関からの融資で賄っている場合は、月々の返済もしなければなりません。
こういった状況を考えると、人件費、賃料、リース代、金融機関への返済などに相当する費用は事前に担保したいところです。具体的には最低でも3ヶ月分、可能であれば半年~1年分の運転資金を用意しておくと、より安心でしょう。
開業前準備金
ここまでクリニック開業に必要な「物件取得費」「建築・内装費」「医療機器の購入費」「開業前準備金」を挙げましたが、ほかにも考慮しなければならないものがあります。 たとえば、採用募集に関する費用、クリニック開業を案内するための内覧会開催や広告宣伝にかかる費用、診察券の発行にかかる費用、コピー用紙や文具などの消耗品費、医師会入会金などが考えられます。
こういった細かな費用をあらかじめ想定しておくと、開業間近で慌てずに対応できるでしょう。
まとめ
クリニックの開業資金としてどのようなものがあるのかについてご紹介いたしました。
開業資金を考える上では、高額になりがちな費用をどう工面するかがポイントとなります。 前述のとおり戸建て開業にするのかテナント開業にするのかによっても費用に差があり、導入すべき医療機器も科目、専門分野、診療方針、クリニックの規模などによって異なります。
資金の確保や開業準備において不安があれば、より知識と実績のある経営・開業コンサルティング業者、医薬品卸、などに相談するのも一案です。ご自身のクリニックの理念やコンセプトを実現し、よい診療を実施するために本記事がお役に立てば幸いです。
執筆者プロフィール
寺崎芳紀(株式会社アースソリューション 代表取締役)
東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、都内信用組合やスポーツ関連流通会社を経て、ベンチャー企業に参画し取締役営業部長に就任。その後大手介護事業会社にて数多くの介護事業所開発や運営に携わる。2007年より現職。経営コンサルタントとして医療機関・介護事業所運営のコンサルティングサービス等を行い、現在に至る。