科学的介護情報システムとは?特徴や導入までのステップを紹介

2024年10月1日

「科学的介護情報システムを導入したいが、概要や活用によるメリットなどを整理しておきたい」と思う方もいるのではないでしょうか。科学的介護情報システムを活用すると、科学的根拠に基づく質の高いケアを提供できるだけでなく、運営の効率化や増収なども期待できます。

本記事では、科学的介護情報システムの特徴や導入までのステップを紹介します。

リハビリに関するご相談

科学的介護情報システムとは?概要を説明

科学的介護情報システムとは、介護施設・事業所の利用者やケアに関する特定のデータを集めた厚生労働省の情報システムのことです。「Long-term care Information system For Evidence」通称「LIFE(ライフ)」とも呼ばれています。

システムにデータを送信すると、全国から集まったデータをもとに、介護施設・事業所へフィードバック情報が提供されます。これにより、介護施設・事業所は、課題の把握や質の高いケアの提供が可能になるといわれています。
ケアの質が向上すると、自立支援と重度化防止の取り組みが一層進み、利用者の生活の質が向上するきっかけになるでしょう。

また、蓄積されたデータは研究者へも提供され、次のような目的にも活用されます。

・新たなエビデンスの創出
・医療機関など他の公的データベースと組み合わせた、より詳細な解析

このように科学的介護情報システムは、介護施設・事業所が「根拠に基づいた科学的な介護」による質の高いケアを提供し、利用者の生活の質が向上するのに役立つといえます。

出典:厚生労働省 「ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引き」

科学的介護情報システムでできることと導入のメリット

科学的介護情報システムの導入により、利用者個人の状態や介護施設・事業所の立ち位置などが、客観的なデータから把握できます。また、運営上のさまざまなメリットも得られます。

ここからは、科学的介護情報システムの主な機能と導入によるメリットを見ていきましょう。

科学的介護情報システムの主要な機能

科学的介護情報システムには、介護施設・事業所からのデータを蓄積し、解析する機能があります。事業者が入力・送信するデータは以下のとおりです。

・利用者の状態に関すること:心身機能・栄養状態・疾患・服薬情報・ADL・身長・体重など
・ケアに関すること:ケアの計画や内容など

これらを定められた月の翌月10日までに送信し、少なくとも3か月に1回行います。

出典:厚生労働省 「ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引き」

送信したデータはシステムに蓄積され、フィードバック時にグラフや表などから確認が可能です。確認できる情報には、以下のものがあります。

・利用者の状態の変化:ADLの点数や栄養状態のリスクレベルなど
・施設・事業所の立ち位置:全国値に対する施設・事業所のADL平均値など

科学的介護情報システムを活用した利用者のモニタリングは、次の(1)~(6)に示したPDCAサイクルに沿って行うことが重要です。

(1)P(Plan):目標設定と計画作成をする
(2)D(Do):ケアを提供する
(3)C(Check)ケアの提供による変化を記録する
(4)システムへデータを提出する
(5)施設・事業所はフィードバックを受ける
(6)A(Action):フィードバックと計画書等の情報から、ケアの評価・見直しをする

科学的根拠に基づいた質の高いケアを提供するために、上記プロセスを繰り返します。

科学的介護情報システム導入のメリット

科学的介護情報システムの導入によって得られるメリットには、以下のものがあります。

・根拠に基づいたケア計画が立案できる
フィードバック情報を活用すると、根拠に基づいたケア計画を立てられるようになります。
かつてはケアの効果を数値で判定できないことが課題でした。システムの導入により「誰に何をすると、何がどのように良くなる」といったことがわかるようになります。

・効率的な運営ができる
提供すべきケアが明確になると、実際に効果のあるケアを迅速に選択・実施できるようになります。
これにより計画の立案とケアの提供までにかかる時間が短縮され、職員の生産性が向上し、結果的に効率的な運営が可能になるでしょう。

・加算がとれる
増収の観点からもシステムの活用は重要です。介護施設・事業所の加算には、科学的介護情報システムの活用により算定できるものがあります。代表的な加算は、以下の表を参考にしてください。

介護サービスの種別加算単位数
通所リハビリテーション・通所介護共通科学的介護推進体制加算40単位/月
通所リハビリテーションリハビリテーションマネジメント加算(ロ)6月以内の期間
 593単位/月

6月超の期間
 273単位/月
事業所の医師の説明により同意を得た場合
270単位/月
リハビリテーションマネジメント加算(ハ)6月以内の期間
 793単位/月

6月超の期間
 473単位/月
通所介護個別機能訓練加算(Ⅱ)20単位/月
ADL維持等加算(Ⅰ)30単位/月
ADL維持等加算(Ⅱ)60単位/月

システムを活用して計画の内容を改善すれば、質の高いケアを提供できるだけでなく、施設・事業所の増収にもつながるでしょう。

科学的介護情報システムの利用手順

科学的介護情報システムの利用手順を、導入時の注意点とあわせて見ていきましょう。

手順1.申し込み

システムを利用するためには、申し込みが必要です。また、申し込みに先立ってシステムの操作に必要な環境を準備します。
動作条件は、次のとおりです。

項目確認対象条件
機器モニタ解像度1920×1080 ドット以上推奨
ソフトウェアOSWindows10,Windows11
(.NET Framework 4.7以上)
インターネットブラウザー
(以降、ブラウザー)
Microsoft Edge または Google Chrome
アプリケーションAdobe Acrobat Reader DC
(※帳票出力のため)
その他-インターネットに接続できること

引用:厚生労働省 「LIFE導入ガイド[PDF]」-「第1 章 LIFE を使う前に―1.3 お使いになるパソコンの条件」p.1-9を加工して作成


利用環境が整ったら、科学的介護情報システムのページにアクセスし、利用登録をします。案内に従って必要な情報を入力してください。

手順2.ダウンロード

起動アイコンを端末にダウンロードします。ブラウザーに直接URLを入力してアクセスすると、端末のアクセス可否が判定できずログインできません。そのため、必ずダウンロードしましょう。

手順3.基本情報の登録

科学的介護情報システムを利用できるユーザーは、「管理ユーザー」と「操作職員」の2種類があります。
基本情報の登録にあたって、「管理ユーザー」と「操作職員」の設定を以下のように行います。

・管理ユーザー:パスワード・使用する端末・事業所名・暗号化キーなどの設定と、操作職員の登録をする
・操作職員:管理ユーザーから受け取った情報を用いてログインする

手順4.データ提出

登録が済んだら、以下のいずれかの方法でデータを提出します。

・介護記録ソフトの場合:CSVファイル形式で出力後、データを送る
・紙で運用・介護記録ソフト未対応の場合:システムへ直接入力して送る

出典:厚生労働省 「操作マニュアル・よくあるご質問等(LIFE導入ガイド[PDF])」

導入時の注意点

導入にあたっては、操作職員への指導が重要です。慣れるまでは業務の負担になる場合があるため、操作方法の統一や提出に必要な情報の指導などを定期的に行うとよいでしょう。

また、管理ユーザーと操作職員が使用する端末が異なる場合、操作職員の端末にバックアップファイルを読み込む必要があります。これは、管理ユーザーが新しい情報を登録しても、操作職員の端末には自動的に反映されないからです。
情報を更新するたびに、バックアップファイルを操作職員の端末に読み込み、最新の情報を反映させましょう。

こまめなバックアップにより、暗号化キーの紛失も避けられます。暗号化キーは、利用者情報や様式情報を利用する際に必要なものです。

端末の故障などにより紛失してしまわないように、こまめにバックアップをとったり、暗号化キーの文字列を控えたりしておきましょう。

科学的介護情報システムの導入事例

科学的介護情報システムの導入事例を紹介します。

初めて使う評価項目に対して研修とOJTを導入した事例

【概要】

介護老人保健施設において、初めて使う評価項目に関する段階的な指導をリハビリスタッフが中心となって行った。

【評価項目】

・DBD13:認知症の行動心理症状の評価
・Vitality Index:日常生活に対する意欲の評価

【方法と手順】

(1)リハビリスタッフから施設全体へ向けた研修を開催し、評価項目の理解を深めてもらった
(2)未経験者が慣れて実施できるようになるまで、経験者によるOJTを実施した

【結果】
それぞれの評価項目に関する理解が施設全体で円滑に進み、OJTの導入により未経験者でも評価方法を習得できた。

出典:厚生労働省 「ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)の利活用に関する事例集07」

科学的介護情報システム等の情報をリハビリテーション会議で活用した事例

【概要】

通所リハビリテーションの「リハビリテーション会議」において、科学的介護情報システムや介護ソフト等のデータをもとに議論し、情報を共有した。

【活用した情報】

・システムで扱う評価データ:ADL・BMI・日常生活自立度など
・介護ソフト等のデータ:提供サービスやケアプランなど
・事業所内外からの情報:事業所を利用する際の様子、他事業所の利用状況など

【方法】

活用した情報をもとに、これまでのサービス提供におけるプロセスの見直しと、目標設定について議論しPDCAサイクルの取り組みをより強化した。

【結果】

スタッフ間で利用者の状態・課題について共通の認識をもてるようになり、課題やケアの方向性を検討しやすくなった。

出典:厚生労働省 「ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)の利活用に関する事例集10」

まとめ

科学的介護情報システムの利用により、フィードバック情報を活かしたPDCAサイクルの強化や、根拠に基づいたケアの提供が可能になります。ケアの質の向上により、利用者のQOLも高くなるでしょう。
介護現場においては、生産性の向上や加算取得による増収効果も期待できます。ぜひ今回の記事を参考に、科学的介護情報システムを導入してみましょう。

執筆者プロフィール

名前:鈴木康峻
肩書:理学療法士・ライター
介護老人保健施設に勤務する傍ら、介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども務める。現場で働く経験から得られる一次情報を強みに、医療・介護分野のWeb記事を多数執筆。監修やインタビューなども行う。